第28回国家試験で、各社の予想解答が割れている問題です。
※予想解答はあくまでも「予想」なので、公式正答がどうなるかは3月までわかりません。この記事は個人の感想です。
[事例]
A子(18歳)は、高校入学を機にU児童養護施設から母親に引き取られた。しかし、家庭内が落ち着かないため深夜徘徊したり、学業不振や欠席が続き、最近、高校を中退した。これを知った母親の内縁男性がA子を殴り、鼻骨骨折を負わせたが、親権者である母親はA子に対し、「殴られて当然」「あなたが反省すべきだ」と主張した。そこで、A子は児童相談所に相談し、「いつも男性に殴られていた」「母は守ってくれないから、男性がいる家では暮らしたくない」「働いて自立したい」と訴えた。
1 成年に達するまでは、自宅で生活するよう説得する。
2 配偶者暴力相談支援センターを紹介する。
3 児童自立生活援助事業の活用を図る。
4 U児童養護施設に再入所させる。
5 更生保護施設に入所させる。
各社の予想解答は選択肢3と4で割れています。
まず選択肢1は論外ですね。問題解決になっていないどころか深刻化する恐れもあります。
選択肢2は「配偶者」暴力の相談支援センターですから、もしA子の母が内縁関係の男性から暴力を受けているなら紹介先となりうるかもしれません。ただ、今回の事例文では、A子の配偶者とかそれに準ずる人は登場していません。
選択肢3は、いわゆる「自立援助ホーム」の活用、選択肢4は児童養護施設への再入所です。これらは後で検討します。
選択肢5は更生保護施設とのことですが、A子について非行っぽいことといえば深夜徘徊くらいのことで保護観察になりそうな話は出ていませんから、除外していいでしょう。そもそも児童相談所が行う援助の種類に「更生保護施設に入所させる」というものはありません。
※参考URL
児童相談所運営指針 表‐4 児童相談所が行う援助の種類
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/dv-soudanjo-kai-zuhyou.html
残る選択肢3と4について検討します。
選択肢3の「児童自立生活援助事業」とは何か、厚生労働省ホームページから引用します。
自立援助ホーム(児童自立生活援助事業)は、義務教育を終了した20歳未満の児童であって、児童養護施設等を退所したもの又はその他の都道府県知事が必要と認めたものに対し、これらの者が共同生活を営む住居(自立援助ホーム)において、相談その他の日常生活上の援助、生活指導、就業の支援等を行う事業です。
(社会的養護の施設等について、厚生労働省ホームページ、http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/syakaiteki_yougo/01.html)
A子は「義務教育を終了した20歳未満の児童」であり、「児童養護施設等を退所したもの」ですし、事例文の状況であれば「都道府県知事が必要と認めたもの」にも該当しそうです。母親と内縁関係の男性と一緒に暮らしたくない(自宅以外の生活拠点が必要)という訴えにも対応できますし、働いて自立したいという希望にも応えられます。正しい選択肢のように思えます。
※児童自立支援施設と児童自立生活援助事業は、別物です。
選択肢4は、すでに18歳に達しているA子が「児童」養護施設に再入所できるのかが問題です。児童養護施設の根拠法である児童福祉法は、児童を18歳未満と定義しているからです。18歳を超えていても児童養護施設が関わる根拠になりそうな「児童養護施設運営指針」から引用します。
4.対象児童
(中略)
(2)子どもの年齢等
①年齢要件と柔軟な対応
・児童養護施設は、乳児を除く18歳に至るまでの子どもを対象としてきたが、特に必要がある場合は乳児から対象にできる。
・また、20歳に達するまで措置延長ができることから、子どもの最善の利益や発達状況をかんがみて、必要がある場合は18歳を超えても対応していくことが望ましい。
・義務教育終了後、進学せず、又は高校中退で就労する者であっても、その高い養護性を考慮して、でき得る限り入所を継続していくことが必要である。(児童養護施設運営指針、平成24年3月29日厚生労働省雇用均等・児童家庭局長通知、厚生労働省ホームページ、http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/syakaiteki_yougo/dl/yougo_genjou_04.pdf)
18歳になったからといってただちに児童養護施設から放り出すようなことをせず、必要に応じて入所を続けることが望ましいと書いてあります。するとA子が18歳であるという点はクリアされ、選択肢4も正しいように思えます。
ただ、ここでは「措置延長」とか「入所を継続」という言葉が遣われています。児童養護施設で18歳を迎えた人が18歳になっても施設に居続けることを想定していて、高校入学を機に退所して自宅で18歳を迎えたA子のようなケースで再入所までは想定していない気がします。
続く項目で、再措置について書かれています。
③再措置への対応
・児童養護施設は、対象となる子どもの背景が多岐にわたっているとともに、子どもの年齢も幅広く、社会的養護を担う施設のなかでは中核的存在となっている。
・児童養護施設から里親、情緒障害児短期治療施設や児童自立支援施設などへの措置変更に際しては、そうした子どもが再び児童養護施設での養育が必要と判断された場合、養育の連続性の意味からも入所していた施設に再措置されることが望ましい。家庭復帰した場合も同様である。
・また、18歳に達する前に施設を退所し自立した子どもについては、まだ高い養護性を有したままであることを踏まえ、十分なアフターケアとともに、必要な場合には再入所の措置がとられることが望ましい。(同)
A子は最後の「18歳に達する前に施設を退所し自立した」という記述に該当しています。ただし、すでに18歳になったA子が措置対象の「子ども」に含まれるかが微妙です。
自立援助ホームと児童養護施設について調べてみて、個人的な結論としては選択肢3(自立援助ホームの活用)が答えかなと思います。18歳を超えた人を児童養護施設に措置入所させられる根拠が見当たらないなかで、「18歳の人で自宅以外の生活拠点が必要、働いて自立したい」という事例にマッチする選択肢としては4よりも3に思えます。
ちなみに、細かい知識なしに、いわゆる試験テクニックだけでこの問題を見ても、選択肢3かなと思います。各選択肢の語尾を見ると、1説得する、2紹介する、3活用を図る、4させる、5させる、となっています。適切な対応を選ぶ事例問題で、説得するとか~させるとか、本人以外の判断を押し付けるような選択肢が正解ということはほぼありません。そこで2か3に絞られて、2が「配偶者」というズレた単語を含んでいるので3が残ると思います。
※2016年3月15日追記
公式正答の発表がありました。正答は「3」です。
正答3