[事例]
高校生のときに統合失調症を発症したHさんは、10年以上の入院生活が続いており、退院して地域で生活することを望んでいる。両親はすでに他界し、兄弟は遠隔地在住で、Hさんの退院後の生活を支援してくれる人はいない。Hさんの症状は不安定で、日常的に服薬管理などの医療サービスや生活全般の見守り・助言、リハビリテーション、就労支援など、様々な支援が必要である。
1 ストレングスモデル
2 リハビリテーションモデル
3 臨床型モデル
4 仲介型モデル
5 ACT(包括型地域生活支援プログラム)モデル
精神障害者の退院支援という事例で、社会福祉士の教科書等では選択肢全体をカバーする説明が見当たりませんでした。精神保健福祉士の参考書から引用します。
ケアマネジメントの類型
積極型:総合型,包括型とも呼ばれる。複数の職種がチームを組み直接サービスにより入院代替機能を果たす。ACT
仲介型:利用者とサービスを結びつけることを目的にする
リハビリテーション型:利用者の能力と環境の改善に焦点を当てたかかわりを行う
臨床型:固定した援助者が直接・間接援助を行う
ストレングス型:利用者と環境の潜在能力に着目したかかわりを行う(精神保健福祉士試験対策研究会『福祉教科書 精神保健福祉士 完全合格テキスト 専門科目』、第2版、翔泳社(2014)、p.304)
国家試験の選択肢と順番は違いますが、同じ5種類のモデルです。おそらく精神保健分野ではこの5つのモデルが1セットになっているのでしょう。
この問題は、「事例の支援内容を表しているモデルは何か」という問い【ではない】ことに注意が必要です。事例はまだ支援に取り掛かっておらず、状況説明だけが与えられていて、「どのモデルで支援するのが適しているか」を問われています。事例文の情報からアセスメントをしなくてはなりません。
事例文の中から強いてポイントを抜き出すとすれば「地域で生活することを望んでいる」「様々な支援が必要である」だと思います。望んでいること(主訴)は何か、必要なこと(ニーズ)は何か、に注意して読みましょう。
事例のHさんは入院生活が長く、医療関係サービスとのつながりはすでにあると思われるので、退院の段階になって仲介型モデルが最重要になることはないでしょう。また、治療(医療的ケア)以外にも様々な支援が必要で、治療効果重視の臨床型モデルでは見守りや就労支援までカバーできないと思います。リハビリテーションが必要とは書いてありますが、必要な支援はそれだけではないので、これも退院時に一番適したモデルとは言えません。また、就労支援などにおいては「何ができないか」より「何ができるか」に着目するストレングス視点も必要だと思いますが、今回の事例では、医療関係サービスを始めとした支援の「ニーズ」が明らかになっていますので、ストレングスが最重要にもならないでしょう。
このように考えると、選択肢5のACT(包括型地域生活支援プログラム)モデルが残ります。上記のACTの説明にもあるように、ACTには入院代替機能があり、退院や、(病院の対義語としての)「地域」での生活と深くつながっているモデルです。
ACT(包括的地域生活支援プログラム)
Assertive Community Treatment
重い精神障害をもった人であっても, 地域社会の中で自分らしい生活を実現・維持できるよう包括的な訪問型支援を提供するケアマネジメントモデルのひとつです.
1970年代初頭にアメリカで生まれてから多くの国に普及し, 効果が実証されています.(ACT概要、COMHBO地域精神保健福祉機構ホームページ、https://www.comhbo.net/?page_id=1379)
正答5