第28回 問題100

第28回国家試験で、各社の予想解答が割れている問題です。

※予想解答はあくまでも「予想」なので、公式正答がどうなるかは3月までわかりません。この記事は個人の感想です。

問題を見てみましょう。

問題100 危機介入に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 クライエントのパーソナリティの再構成を目的とする。
2 家族療法の影響を受けて体系化されている。
3 キャプラン(Caplan, G.)は、危機から回復する要因として対処機制を挙げた。
4 回復をもたらすために時間を掛けてなされる。
5 リンデマン(Lindemann, E.)による悲嘆に関する研究を起源とする。

各社の予想解答は3と5で割れています。
私がざっと解いたときの感想は、1と2は「さあどうかな」3は「危機介入といえばキャプラン」4は「短期処遇が特徴だからこれは誤り」5は「リンデマンって誰?」でした。もし、本番の試験として受験していたら、一番それっぽい3を選んで次の問題へ行ったと思います。

ここでは、後日調べた内容をもとに、選択肢を改めて確認してみます。まず、危機介入アプローチについて、教科書から引用します。

危機介入(crisis intervention)アプローチは、フロイト(S. Freud)の精神分析理論やエリクソン(E. H. Erikson)の自我心理学(発達段階と発達課題)、また学習理論を基礎にしつつ、ロス(E. kübler-Ross)の死の受容過程研究、リンデマン(E. Lindemann)の死別による急性悲嘆反応研究、またキャプラン(G. Caplan)による地域予防精神医学研究の各成果を摂取し、短期処遇の方法として理論化、体系化され、医学・精神医学、心理学、ソーシャルワークなどのなかで活用されてきている。

(社会福祉士養成講座編集委員会編『新・社会福祉士養成講座8 相談援助の理論と方法II』、第2版、中央法規出版(2014)、p.156)

原文ママです。なが~い一文です。教科書では6行にわたっていました。

教科書の記述からして、パーソナリティとか家族療法の話は出てきていないので、選択肢1と2は除外します。また、「短期処遇の方法として理論化、体系化され」とあるので、時間をかけるという選択肢4も除外します。

選択肢3は、「キャプラン」という、危機介入アプローチのひとつのキーワードが出てきていますが、「対処機制」というよくわからない言葉があるのが気になります。選択肢5の「リンデマン」は、私は知らなかったですが教科書にも出てきているので、危機介入アプローチのキーワードではあるようです。となると、「起源とする」の部分が正しいかどうかが問題です。

教科書だけでは判断できなかったので、「キャプラン 対処機制」でインターネット検索したところ、古いですが日本語の論文がヒットしました。

秋山薊二、危機介入に於ける価値 Value in Crisis Intervention、紀要(17) 、 pp.1 – 19、1981-03-25 、弘前学院大学・弘前学院短期大学
http://jairo.nii.ac.jp/0175/00000282
薊二は「けいじ」と読むそうです。 「自から」「と云う点に於て」「矢張り」とか独特の表記法が気になりますがそれは置いておきます。文中で「Caplain」(なぜかiがある)と表記されていますがおそらくキャプラン(Caplan)のことだと思います。そして今回初めて知りましたが危機介入の分野でKaplanという人もいるんですね。ややこしい。

教科書の記述だと、いろいろな人が関わってできたという感じで誰が創始したという明確な言及はありませんが、論文では最初にリンデマンとキャプランが創始者と書いてあります。

危機介入理論の創始者は精神科医であるE. Lindemann(1944)と同じく精神科医であるG. Caplain(1964)の二人であるといわれている。

(秋山薊二、危機介入に於ける価値 Value in Crisis Intervention、紀要(17) 、 p.1、1981-03-25 、弘前学院大学・弘前学院短期大学)

もし二人のうちどちらが最初に始めたのかを判断しなければならないとしたら、リンデマンが1944年、キャプランが1964年なので、リンデマンが最初ということになるでしょう。

なお、この二人が創始者であるということについて脚注があります。

この件に関してはRapoport(1970),Selby(1963),アグレア,メンズィク(1974),稲村(1977),いずれも認めるところである。

(同)

また、同論文には、リンデマンが1944年に発表した火災遺族の悲嘆に関する研究のことや、彼がその研究をもとに1948年にキャプランと危機介入の研究プロジェクトを始めたこと、1960年代にはキャプランが危機の研究成果を発表していたことが書いてあります(2.危機の概念)。

ここまで見てくると、選択肢5は正しいように思えます。

とすると選択肢3の「対処機制」がどんなものかを確認してみないといけません。

Caplain(1964)が評価される点は危機を説明するにあって恒常(homeostasis)の概念を導入したことにある。個人の情緒機能の均衡状態(恒常)は日常的な問題解決に用いる対処機制(coping mechanism)が維持されていることによる。しかし問題が普通以上に大きい時,もしくは個人の人格に関わる重要な問題が起る時,もしくは個人が保持している対処機制ではどうにもならない問題が起きる時,人は情緒的に危険な状態になり危機へと進んで行く。

(同、p.3)

対処機制というのはcoping mechanismの訳語だということがわかります。そして、ここで言われていることは「問題があっても、通常は対処機制が機能することで情緒的にバランスのとれた恒常状態でいられる。しかし、問題が大きすぎるなどして対処機制で対応しきれないとき、情緒的な危機状態になる」ということです。確かにキャプランは「対処機制」という言葉をつかっているみたいですが、選択肢3のいう「危機から回復する要因」を指すのではなく「危機に陥らないようにする機能」を指しているように思われます。

個人的な結論としては、選択肢5が正解かなと思います。

得点のしにくさを難しさと言うならば「難しい」問題ということになるのでしょうが、教科書を見ても判断できずインターネットに頼ってようやく自分なりの結論に至るような問題でしたから、得点できないのが普通、「当たればラッキー」程度の問題だと思います。

※2016年3月15日追記
公式正答の発表がありました。正答は「5」です。

第28回国家試験 問題100(相談援助の理論と方法)
正答5
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