第28回国家試験で、公式に解答不要(全員に加点)とされた問題以外に、「正答なし」という予想解答がある問題です。
※予想解答はあくまでも「予想」なので、公式正答がどうなるかは3月までわかりません。この記事は個人の感想です。
1 日常生活自立支援事業の開始当初は、知的障害者は利用対象外であった。
2 相談開始から契約締結前の初期相談までの相談支援は、有料である。
3 実施主体は、地域包括支援センターである。
4 病院に入院した場合には、利用できない。
5 成年被後見人は利用できない。
厚生労働省が日常生活自立支援事業について説明しているページがあったので見てみました。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/chiiki-fukusi-yougo/
問題に関連していそうなところを引用します。
日常生活自立支援事業とは、認知症高齢者、知的障害者、精神障害者等のうち判断能力が不十分な方が地域において自立した生活が送れるよう、利用者との契約に基づき、福祉サービスの利用援助等を行うものです。
これは選択肢1と関係ありますが、このページの記載内容だけでは開始当初はどうだったのかがわからないので、選択肢1は保留にします。
利用料
実施主体が定める利用料を利用者が負担します。
(参考)実施主体が設定している訪問1回あたり利用料 平均1,200円
ただし、契約締結前の初期相談等に係る経費や生活保護受給世帯の利用料については、無料となっています。
ただし書きに「契約締結前の初期相談等にかかる経費(中略)については、無料」とあるので、選択肢2は誤りです。
実施主体
都道府県・指定都市社会福祉協議会(窓口業務等は市町村の社会福祉協議会等で実施)
県社協なのか市町村社協なのか?というと迷ってしまうかもしれませんが、とりあえず社協がやっている事業であって地域包括支援センターが実施している事業ではありません。したがって選択肢3も誤りです。
可能性がある選択肢は1・4・5に絞られました。
事業の開始当初はどうだったのかを知りたくて、旧事業名(地域福祉権利擁護事業)で検索すると厚生労働省の報道発表資料が見つかりました。日付は平成12(2000)年3月15日です。
http://www1.mhlw.go.jp/houdou/1203/h0315-1_16.html
事業の広報予定についての報道発表ですが、「参考」として事業概要も書いてあるので、選択肢1に関連する部分を引用します。
ア)対象者
痴呆性高齢者、知的障害者、精神障害者等で判断能力が一定程度あるが十分ではないことにより自己の能力で様々なサービスを適切に利用することが困難な者。
これを見る限り、旧事業のころから対象者に知的障害者も含まれていたことがわかるので、選択肢1は誤りであると考えられます。
残る選択肢は4と5です。
「日常生活自立支援事業 入院」で検索すると、全国社会福祉協議会(全社協)のパンフレットがヒットしました。
http://www.shakyo.or.jp/news/100517/nshien_1.pdf
入院した場合のことが書いてありましたので引用します。
施設や病院に入所、入院した場合でも利用できます
福祉施設に入所したり、病院に入院した場合でも、日常生活自立支援事業のサービスを利用することができます。
入院しても事業を利用できるんですね。そうであれば、選択肢4は誤りで、残る選択肢5が正答ということになります。
ところが、選択肢5とは違い「日常生活自立支援事業と成年後見制度は併用できる」という記述がいろいろな社協のホームページで見られます。
「日常生活自立支援事業 成年後見制度 併用」で検索すると、大阪府社会福祉協議会の資料が出てきました。
http://www.osakafusyakyo.or.jp/kouken/tebiki/tebiki05.pdf
「成年後見制度 市町村申し立ての手引き(平成26年3月改訂版)」という文書の第4章で、成年後見人等との契約について言及があります。
法定代理人である成年後見人との間で利用契約の締結が可能である。これまで日常生活自立支援事業の利用経験がなかった場合でも、事業の既契約者が成年後見制度を利用するに至った場合でも可能である。
成年後見制度と日常生活自立支援事業を併用することで、制度的に互いに補完し、支援を重層化できる場合もある。一方、安易な併用は成年後見人が行うべき成年被後見人の心身や生活状況への配慮を希薄にし、両制度の本旨からそれる危険性がある。両制度の併用にあたっては、個々の事例について具体的な検討を加え、役割分担を明確にする作業が必要である。
成年後見人等との契約においては、本人意思の確認と尊重を基本として、本人の生活ニーズにあわせて、個別の事例ごとに両制度の役割分担に検討を加える必要がある。
成年後見人は日常生活自立支援事業より強力な権限を持っていて、日常的な金銭管理はもちろん不動産の処分や預金の解約など大々的に財産を動かすこともできます。なので、成年後見人がいるなら日常生活自立支援制度は不要じゃないの?とも思えますが、併用するほうがよいと考えられるケースもあるということです。
上記の資料を読むと、2つの制度は併用できるということなので、選択肢5も誤りに思えます。最終的に、すべての選択肢が誤りということになってしまい、「正答なし」という予想解答を出している会社があることもうなずけます。
公式正答は3月の合格発表のときまで出ませんので、この問題が公式に「正答なし」になるかどうかはわかりません。もし公式正答が「ある」ということになったら、4か5、どちらかというと5?かと思います。理由は次の2点です。
・5だけは厚生労働省や全社協など、制度運用の取りまとめ役的な存在が「できる」と書いている資料が見当たらない
・(実践上はどうあれ)基本的な考え方として、日常生活自立支援事業は利用契約の意味がわかる程度の判断能力がある人が対象ということになっている(成年被後見人にはその判断力がないと考えられる)
※2016年3月10日追記
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※2016年3月15日追記
公式正答の発表がありました。正答は「5」です。
正答5