第28回 問題102

第28回 問題102 事例を読んで、G相談支援専門員(社会福祉士)のアプローチにより引き出された利用者の心理的特性を表すものとして、適切なものを2つ選びなさい。
[事例]
軽度の知的障害のあるHさんは、高校を卒業後、知り合いの観光旅館で雑用係として勤めていたが、同僚から度々ミスを厳しく指摘されて辞めてしまい、無気力になって自宅に籠もってしまった。心配した母親が相談支援事業所に相談に来た。G相談支援専門員はHさんと何度か面談し、本人の気持ちを確認した上で、近隣のNPO法人が運営する高齢者向けの喫茶ルームのボランティアを紹介した。それから3か月が経過したが、G相談支援専門員はHさんの小さな成功体験を共有することで支援している。
1 自己斉一性
2 自己効力感
3 自己開示
4 自尊感情
5 セルフアドボカシー

適切なものを「2つ」選ぶ問題です。また、社会福祉士のアプローチで引き出された「利用者の心理的特性」を答える問題であることに注意しましょう。社会福祉士や利用者が「何をしたか」を問われているのではありません。

選択肢3・5について

自己開示とは、自分は「こうである」と感じているがまま、あるがままの自分について相手に伝えることである。

(社会福祉士養成講座編集委員会編『新・社会福祉士養成講座2 心理学理論と心理的支援』、第2版、中央法規出版(2014)、p.92)

「権利擁護」とは「アドボカシー(advocacy)」の訳語とされ、ソーシャルワークにおいては、社会福祉サービス利用者の権利や主張を支持、代弁、弁護する活動と意味づけられる。

(社会福祉士養成講座編集委員会編『新・社会福祉士養成講座6 相談援助の基盤と専門職』、第2版、中央法規出版(2013)、p.224)

アドボカシーの類型としては、①自らの権利を主張していく活動であるセルフアドボカシー(self-advocacy)、②教育訓練を受けた市民と調整役としてのスタッフが障害者などの権利を守る活動を行う市民アドボカシー(citizen-advocacy)、③セルフアドボカシーや市民アドボカシーでは対応できず、弁護士などが法的な手段を用いて彼らの権利を守る活動を展開するリーガルアドボカシー(legal-advocacy)という分類がある。

(社会福祉士養成講座編集委員会編『新・社会福祉士養成講座8 相談援助の理論と方法II』、第2版、中央法規出版(2014)、p.118)

選択肢3(自己開示)と5(セルフアドボカシー)は、いずれも心理的特性ではなく「すること」なので、この問題の答えとしては適切ではありません。

残る選択肢1・2・4は心理的特性といえるので、この3つの中から2つを選びます。

事例文の中でポイントは「小さな成功体験を共有」という部分です。このときのHさんの心境を考えてみると、まず小さな成功体験をすることで「できた」という感覚があり、G相談支援専門員がそれを共有することで「他者から認められた、評価された」という感覚があると思われます。さらには「私はこういうあり方でいいのだ」「もっと挑戦しよう」という前向きな気持ちも生まれるかもしれません。

これらの心理的特性に該当するのは、選択肢2(自己効力感)と4(自尊感情)です。

自己効力感とは、ある目標を達成するために、自分自身で必要な行動を実行できるという期待のことであり、バンデューラ(A. Bandura)が1977年に提唱した考え方である。(中略)
自己効力感は、目標設定の仕方によって影響される場合がある。バンデューラらは、子どもを対象に、算数学習に関する実験でこのことを示している。より具体的で達成可能な目標を立てた場合のほうが、遠くて水準の高い目標を立てた場合よりも、子どもたちの課題の成績が良くなった。このことは、徐々に小さな目標を達成するという経験を重ねることによって、自分が行動を実行することについての現実的で確かな自信、つまり、自己効力感を高め得るということを示した。

(社会福祉士養成講座編集委員会編『新・社会福祉士養成講座2 心理学理論と心理的支援』、第2版、中央法規出版(2014)、p.43

自尊感情については教科書の説明を見つけられなかったのですが、Wikipedia日本語版の説明が私にはしっくりきました。

よく似た用語に、自尊心(self-esteem)があるが、自尊心は自分を信じていること、あるいは自分を信じていると感じている程度を意味するのに対し、自己効力感は自分にある目標を達成する能力があるという認知のことをさす。ただし、高い自尊心を持っていれば、困難な作業であってもそれに取り組もうとして、結果的に成功をもたらすことも多い。

(自己効力感、Wikipedia日本語版、https://ja.wikipedia.org/wiki/自己効力感

ある目標を達成可能と思うのは「自己効力感」、特に具体的な目標はなくとも自分のことを「これでよい」と思っているときには「自尊感情」と区別できます。

選択肢1について
「じこせいいつせい」と読むそうです。私は問題を解いたときに初めて見た言葉でしたが、「自己(自我)同一性」の親戚かな?と思い、アイデンティティ獲得とかアイデンティティクライシスという事例ではないし、選択肢2・4が事例にぴったりだったのであまり深く考えずに除外しました。

後で調べたところ、やはり自己同一性と関係があるそうです。エリクソンが提唱したアイデンティティ(自己同一性、自我同一性)の下位概念として、自己斉一性・連続性というのがあると知りました。心理学を専攻された方だと、おなじみの言葉なのかもしれません。

社会福祉士養成の心理学の教科書では「自己同一性」までは説明がありましたが、下位概念については言及していませんでした。社会福祉士の国家試験対策としては、アイデンティティについて深く追究するよりは、他の知識を広く浅く吸収したほうが得点につながると思います。

第28回国家試験 問題102(相談援助の理論と方法)
正答2, 4

やまだ塾のホームページに掲載されている簡易解説では、「事例問題において,Hさん,母親の年齢と性別を明示していない不十分な設問である」と書かれていました。私は言われるまで気づかなかったくらいなので、この問題に関しては年齢や性別の情報がなくても迷わず解けると思います。ただ、実践上は、関係者の年齢や性別によって活用できる社会資源が変わってくることがあるので、関係者の年齢や性別を確認したり記録したりすることは重要だと思います。

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