[事例]
病院の医療相談室の主任を務めるB社会福祉士は、後輩のC社会福祉士から実践事例を研究会で発表するためのアドバイスを求められた。C社会福祉士は、退院後の独居生活に強い不安を抱く入院患者のDさんと一緒にエコマップを描くことで、Dさんの不安を軽減させ、Dさん自身が退院後の生活を前向きにとらえることができるようになった実践事例をまとめようとしていた。
1 事例は匿名化すれば、Dさんからの了承は得ずに事例研究を行ってもよい。
2 この研究は質的研究なので、グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて効果測定のための考察をする。
3 この質的研究では、不安がなぜ、どのように軽減したのか、そのプロセスを丁寧に考察する。
4 一事例の事例研究ではエビデンスにならないので、研究デザインを量的研究に変更する。
5 この研究は事例を使った質的研究なので、単一事例実験計画法を用いてDさんとC社会福祉士の援助関係を深く考察することが有効である。
選択肢1について
匿名化したとしても、Dさんからの了承なしに事例研究を行うのは適切ではありません。
選択肢2について
この研究は質的研究であり、グラウンデッド・セオリー・アプローチは質的研究におけるデータ分析の一手法です。そこまではいいのですが、効果測定のためにグラウンデッド・セオリー・アプローチを用いるのは適切ではありません。
質的調査における分析とは、簡単にいえば、データからパターンを見出したり、内容を分類したりしながら、データを要約あるいは圧縮することである。
(社会福祉士養成講座編集委員会編、『新・社会福祉士養成講座5 社会調査の基礎』、第3版、中央法規出版(2014)、p.139)
グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いると、ある一時点の現象を端的に記述することはできるかもしれませんが、効果測定のために必要な、介入前と介入後の状態を比較するということが難しくなります。
※関連記事
グラウンデッド・セオリー・アプローチ
http://whitecatnote.seesaa.net/article/423204267.html
選択肢4について
一事例でもエビデンスにならないということはありません(エビデンスとしては弱いですが)。それから、量的研究と質的研究の違いは事例数の違いではないので、「一事例では弱いから量的研究にする」という流れはおかしいです。
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選択肢5について
もし、効果測定であったならば、単一事例実験計画法を用いることは考えられます。しかし、C社会福祉士は、介入の効果があったか(どれくらいあったか)よりも、なぜ・どのように効果が出たのかを実践事例を通してまとめようとしています。選択肢5は適切ではありません。
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集団比較と単一事例
http://whitecatnote.seesaa.net/article/419403784.html
残る選択肢3が正答です。
正答3