「ケースワークの母」リッチモンドについて、第28回国家試験でそれまでと毛色の違う出題があったので、調べてみました。
1 リッチモンド(Richmond, M.)は、ケースワークの過程と対象として、個人に直接働きかける直接的活動と、社会環境を通じて働きかける間接的活動を挙げた。
(選択肢2から5 省略)
答えから言うと、この問題の正答は「1」つまりこの選択肢は「正しい」ということになっています。
「直接的活動」「間接的活動」というのを初めて見たので、私がざっと問題を解いたときは他の選択肢に誤りを見つけて消去法で選んだ選択肢でした。
インターネット検索したところ、「直接的活動」「間接的活動」という言葉はリッチモンドの著作『ソーシャル・ケース・ワークとは何か(1922)』の中で登場しているようです。
日本語版が中央法規出版から出ていますが、インターネット上で国家試験問題のソースになるようなものが読めないかな?と思ったらHistory of Social Workというウェブサイトで原典(英語)のPDFが公開されていました。100年近く前の海外の出版物を、雰囲気そのままに自宅のPCで読めるなんてすごい時代です。
Richmond, Mary Ellen (1922), What is social case work? An introductory description, New York: Russell Sage Foundation
リッチモンドによるソーシャルケースワークの定義もこの本の中に出てきます。
Social case work consists of those processes which develop personality through adjustments consciously effected, individual by individual, between men and their social environment.
(Richmond, Mary Ellen (1922), What is social case work? An introductory description, New York: Russell Sage Foundation, pp.98-99)
日本語版では、ソーシャルケースワークは「人間と社会環境との間を個別に、意識的に調整することを通してパーソナリティを発達させる諸過程から成り立っている」と訳されています。
さて、リッチモンドはこの本の中で6つの事例を取り上げたのち、それぞれの事例の中でケースワーカーがどのように関与したか振り返っています。
……some may question whether these results were achieved by a specialized form of skill, contending that, while the service had its value, it involved the exercise of no new technical knowledge mastered with difficulty and pursued thereafter with increasing expertness, that any intelligent person, without previous training but with tact and goodwill, could have done the same things. It may be well, therefore, to examine what processes and what types of skill were actually involved in these social treatments.
(前掲書、pp.100-101)
ソーシャルケースワークが問題解決に寄与したと思われる事例について、「それは(ソーシャルケースワークという)専門的な技能や実践の積み重ねによるものではなくて、聡明な人が機転をきかせ善意をもって対応すれば同じように解決したのではないか」と疑う人もいるかもしれません。したがって、その疑問に答えるために(すでに提示した6つの)事例を振り返って、どんな過程(processes)・どんな技能(skill)が用いられたかを見てみようと言っています。
リッチモンドはそれまでの章で取り上げた6事例について、担当ケースワーカーのact(行為)とpolicy(方針)をリストアップしました。その結果、6つの長いリストができ、挙がってきた項目(items)には重複も多かったとのこと。重複を整理し、分類したところ、挙がってきた項目は「insights(洞察)」と「acts(行為)」の2つに分けられることがわかりました。これら2つのカテゴリーはさらに2つずつのカテゴリーに分けられ、全部で4つのカテゴリーになるといいます。
……my four divisions were:
A. Insight into individuality and personal characteristics
B. Insight into the resources, dangers, and influence of the social environment
C. Direct action of mind upon mind
D. Indirect action through the social environment
(前掲書、pp.101-102)
リッチモンドが4つに分けた項目のうち、国家試験問題に該当するところを探すと、Cが「個人に直接働きかける直接的活動」、Dが「社会環境を通じて働きかける間接的活動」だと思われます。日本語版の本では、Cは「心から心へ働きかける直接的活動」、Dは「社会環境を通じて働きかける間接的活動」と訳されているようです。
ここまで読むと、確かにリッチモンドは「直接的活動(direct action)」と「間接的活動(indirect action)」に言及していることがわかります。ただ、これらを「ケースワークの過程と対象として」挙げているのかというと、ちょっと疑問ですね。
どんな過程(processes)と技能(skill)が用いられたか知るために、act(行為)とpolicy(方針)をリストアップした結果、直接的活動と間接的活動を見出しています。
国家試験の選択肢をめいっぱい好意的に解釈すると、「リッチモンドは、過程としては『直接的活動』と『間接的活動』の2つがあり、直接的活動の対象は『(個人の)心』、間接的活動の対象は『社会環境』であると言った」ということだろうか、と思います。
(国家試験での出題)
28-093