[事例]
L社会福祉士は、S町にある特定施設入居者生活介護事業所の管理者をしている。ある日、最近入所したMさんについて、複数の入居者から「昨夜、Mさんが廊下を歩き回ってうるさかった」との苦情を受けた。Mさんを担当したA介護職員に状況を聞くと、「夜勤時、Mさんが大声を出して歩き回っていたので、一晩部屋から出られないように鍵をかけておいた」との説明があった。
1 速やかにS町へ通報をすることにした。
2 閉じ込めたことは、やむを得ない対応と判断した。
3 Mさんの家族に電話で状況を説明し、了解を求めることとした。
4 Mさんの行動について、関係する職員とその要因を分析しつつ、対応方法を検討することとした。
5 外部に情報が広がらないように、ボランティアの受入れを中止することとした。
適切なものを「2つ」選ぶ問題です。当初、各社が予想した解答が割れた、いわゆる「割れ問」でした。
「大声を出して廊下を歩き回る利用者を、施錠した部屋に閉じ込めた」という状況をどう受け止めるか。やむを得ないという選択肢2、外部に情報が出ないようにする選択肢5はまず除外できます。残る選択肢1、3、4の中から選びます。
「施錠した部屋に閉じ込める」という行為は、厚生労働省の『身体拘束ゼロへの手引き』(2001年)7ページの、身体拘束禁止の対象となる具体的な行為⑪自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する に該当します。したがって、この事例は身体拘束があったと受け止めるべきです。身体拘束は、高齢者虐待防止法における虐待の定義には含まれていませんが、施設等での安易な身体拘束は、高齢者虐待であるとされています。
施設などでの安易な身体拘束も虐待です
介護保険施設等では、「身体拘束」が禁止されています*。家庭における「身体拘束」も、高齢者に与える悪い影響は施設と同じです。しかし、家族の介護力には限界があり、拘束せずに介護を続けるためには、事業者や地域の適切な支援が欠かせません。
ケガの予防や認知症(痴呆)の行動障害の防止策と思われがちな身体拘束ですが、問題となっている行動の目的や意味が理解されず、適切な介護や支援が行われないことで、高齢者本人の状態はむしろ悪化し、心身に重大な影響が生じることが明らかになっています。*緊急やむを得ない場合を除きます。
(高齢者虐待とは?、高齢者虐待防止と権利擁護、東京都福祉保健局ホームページ、http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/zaishien/gyakutai/about/index.html#shintaikousoku)
したがって、この事例では身体拘束すなわち、高齢者虐待があったといえます。
第二十一条 養介護施設従事者等は、当該養介護施設従事者等がその業務に従事している養介護施設又は養介護事業(当該養介護施設の設置者若しくは当該養介護事業を行う者が設置する養介護施設又はこれらの者が行う養介護事業を含む。)において業務に従事する養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。
(高齢者虐待防止法第21条第1項)
高齢者虐待があったわけですから、この状況を知ったL社会福祉士は、速やかにS町に通報しなければなりません。まず選択肢1は適切です。
選択肢3については、身体拘束が緊急やむを得ないとされる場合の対応を意識して作られた選択肢だと思われます。
身体拘束は、次の3つの要件をすべて満たす場合、「緊急やむを得ない」ものとして認められることがあります。
このとき、「身体拘束の方法」「拘束をした時間」「利用者の心身の状況」「緊急やむを得なかった理由」を記録しておくとともに、書面による本人又は家族の確認が必要です。
・切迫性 利用者等の生命又は身体が危険にさらされる可能性が著しく高い。
・非代替性 他に代替する介護方法がない。
・一時性 行動制限が一時的なものである。(身体拘束について、京都府ホームページ、http://www.pref.kyoto.jp/kaigo/13800011.html)
家族の了解があったとしても、切迫性・非代替性・一時性の3要件すべてが揃っていなければ、「緊急やむを得ない」とはなりません。事例では、切迫性・非代替性はないと考えられるので、家族の了解をとったところでどうしようもありません。選択肢3は不適切です。
残る選択肢4は、適切です。
正答1,4